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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)4446号 判決

一 請求原因一(原告が本件実用新案権を有していること)、同二の(一)(本件考案の構成要件の分説)、同三(被告らによるイ号物件の製造販売)の事実については当事者間に争いがない(イ号物件の特定に関する被告らの付加すなわち別紙イ号図面に第4、第5図を、同説明書に(6)、(7)の説明をそれぞれ付加することについては原告において明らかにこれを争わないので自白したものとみなす)。

二 そこで、まず本件考案の技術的範囲について検討するに、本件考案の構成要件は原告主張のとおり分説するのが相当であるところ(争いがない)、いずれも原本の存在(但し、乙号各証)ならびに成立につき争いのない甲第三、第四、第六、第七号証、乙第一ないし第一八号証によれば、本件考案の技術的範囲判定のために参酌すべき資料としては被告ら主張一の(一)(公知資料の存在、但し、甲第五号証の実用新案公報は本件考案の出願後に公告されたものであるから除く)、(二)(審査および審判の経過)の事実を肯認することができる。そして、これによれば、本件考案は当初戸板に関する考案として出願されそこではこれを使用して鎧戸を形成するための縦枠および上下横枠の形状と取付け方は自由であるとされていたが、これは次のような理由すなわち「出願にかかる戸板は公刊物に記載された考案ないしこれより当事者が随時想到しうるものである。」との理由で登録を拒絶されたので原告はこれを不服として審判請求をなし、その手続内で考案を鎧戸に関するものとし、戸板の構成は当初出願のとおりであるが戸の組立に使用する縦枠、上下部横枠、横補強板の形状とその取付け方を目的課題に適合するように補正特定したこと、その結果、本件考案は鎧戸にかかる考案として登録されるに至つたのであるが、右各構成部材の構成のうちの多くのものすなわち戸板の構成、上部横枠に段部を設けることおよびその内部を中空状にして戸の高さを調節できるようにすること、縦枠の外側中央部に台形状の凹所を形成し外表面両端に耳片を設けること、下部横枠の凹所に戸車を設けること自体はいずれも公知または公知の技術より容易に考案しうるものであつたこと、本件考案の特徴的な部分は縦枠に設けられた耳片を利用してその端部と上下部横枠の外表面を同一水平面に形成しうるようにしたことと上部横枠の両側および下部横枠に端部曲折部を有する掛止部を設けたことおよびこれに掛止めしうる横補強板を使用することによつて上下部横枠と縦枠および戸板を強固に枠組できるようにしたことにあること、以上の事実が肯認される。

しかして、右事実と本件考案の前記クレームの記載および明細書の詳細な説明に照らすと、本件考案の要旨は、戸板、縦枠および上下部横枠の形状、構成をそれぞれ詳細な説明記載のような各課題解決に資するようクレーム記載のものに限定し、かつこれに横補強板を加えて組立てるようにしたことにあると解すべきであつて、その技術的範囲を画するに当つてもクレームの字義を超え、あるいは詳細な説明に記載されている作用効果を無視または軽視して解釈する余地はないと考えるのが相当である。

三 そこで、以下、かかる観点から本件考案の構成要件とイ号物件の構成を対比して、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かを検討する。

まず、イ号物件の構成が「戸板と縦枠と上下部横枠とをそれぞれ組合せた」「鎧戸」である点において本件考案の(ホ)、(ト)の構成要件を充足していることは明らかである。

次に、イ号物件の戸板が本件考案の(イ)の構成要件にいう斜状部、前後方の垂直部、多数の通風孔を穿設した水平部からなる山形部を連設したものであることも明らかであり、イ号物件は本件考案の(イ)の構成要件を充足しているということができる。ただ、イ号物件の水平部eに(イ)の構成要件にはない段cが設けられていることおよびイ号物件の戸板が数個の山形部を有するパネルを連結部gで巻き締めして連設したものであることは被告ら主張のとおりであるが、右段cを設けたことは右構成要件内における付加的な設計変更にすぎず、また山形部の連設方法自体は何ら本件考案のクレームにおいて限定されていることではないから(本件考案の公報―甲第一号証―の二頁三欄一五ないし二一行に、戸板17は……山形部4を多数使用して……適宜連設する如く……連結して構成しても、……一枚の板から多数の山形部4を折曲げ形成してもよい旨記載されている点参照)、イ号物件の戸板に関する技術思想は本件考案の(イ)の構成要件の技術思想と異なるものとはいえず、右相違は(イ)の構成要件の該当性を阻却するものではないというべきである。

しかし、イ号物件の縦枠Cは本件考案の(ロ)の構成要件に定める耳片はこれを有していないというほかない。

すなわち、本件考案における耳片に関するクレームの記載は縦枠8の外表面両端縦長全長にわたつて形成されると規定するだけであり、それ以上格別の限定は加えていない。したがつて、イ号物件の耳片iは一見耳片に該当するかのように思われる。しかし、本件考案にいう耳片は上下部横枠の形状、構成との相対関係においてこれら横枠と組合せた場合に耳片の端部と上下部横枠の外表面が同一水平面になるような形状のものでなければならないことは、右耳片が従来のこの種の戸にみられた「縦枠と横枠との結合部分に段部が出来る欠点」(公報一頁二欄六行)を解消し「耳片xの部分に上下部横枠9、10の側端部を当てることによつて、縦枠8の耳片xの端部と横枠9、10の外表面とを同一水平に形成することが出来」(同公報二頁四欄四ないし七行)るようにすることを目的効果として設けられたものであることからして明らかである。

ところが、イ号物件の縦枠Cにはその外側両端全長にわたつて耳片i、iが設けられているほか、同時に縦枠Cの内側両端にも全長にわたつて右耳片i、iと同一突出巾の耳片i´、i´が設けられていることおよび上下部横枠D、Eの形状との関係で縦枠Cと上下部横枠D、Eを組合せるに際し、本件考案の如く右外側両端の耳片i、iに上下部横枠D、Eの側端部をあてることによつて耳片i、iの端部と上下部横枠D、Eの外表面とを同一水平面に形成することが不可能なことが明らかであり、現にイ号物件の縦枠Cと上下横枠D、Eの結合部分に段部のできていることはまぎれもない事実である。

してみると、イ号物件の縦枠Cに設けられた耳片i、iは本件考案の構成要件(ロ)にいう耳片には該当せず、縦枠Cの構成は構成要件(ロ)を充足していないというべきである。

また、イ号物件の上部横枠Dも本件考案の(ハ)の構成要件を充足しているものとは認め難い。すなわち、右横枠Dの構成そのものをみた場合、原告が主張するように、み方によつては、その前側起立板oと水平部jによつて形成される<省略>状部を右構成要件にいう段部23に相当するとし、その前後面被覆部l、lが右構成要件の両側掛止部18に、前面被覆部lの先端曲折部kが右前側掛止部18の端部曲折部21にそれぞれ該当し、右横枠Dは前後面被覆部l、lを延長してなる中空状の横枠であるということも不可能ではない。しかし、後面被覆部l(イ号図面第4図向かつて右側のl)の先端には後側掛止部18の端部曲折部21に相当する曲折部は存せず、右構成要件を完全に充足していないことは明白である。

さらに、イ号物件には本件考案(ヘ)の構成要件にいう横補強板は存せず、右構成要件も充足していない。

まず、右構成要件(ヘ)にいう横補強板17とは、(1)鎧戸を構成する基本的構成部材たる戸板、縦枠、上下部横枠とは別に構成されるものであつてこれに付加されその組立を強固ならしめる別部材であり、かつ(2)それは上下横枠と戸板の接合に必要欠くべからざるものであつて、イ号物件が右構成要件を充足しているというためにはその戸板の上下前後の四カ所の部位にこれが取付けられていることが必要であることは、前示本件考案に対する基本的な見方からして当然である(右(1)の点はクレームにおける「……戸板と、……縦枠8と、……上部横枠9と、……下部横枠10とを夫々組合せると共に、更に……横補強板17を……取付けてなる鎧戸」との文言およびその考案の詳細な説明において「この考案は鎧戸に関するものであり、さらに詳しくは……戸板と、……縦枠と、……上部横枠と、……下部横枠との組合せよりなる鎧戸に関するものである。」として、本件考案にかかる鎧戸が基本的には戸板、縦枠、上下部横枠の四部材よりなるものであることを明記していること―公報一頁一欄二一ないし三一行参照―からして明らかである。また、(2)の点も、クレームにおいて横補強板17は上下部横枠の掛止部18に掛止され戸板17の上下前後に取付けられたものであることが明記されていること、および右横補強板に関する(ヘ)の構成要件が「横補強板17は上下枠と戸板の接合に必要欠くべからざるものであるが、それが請求の範囲に限定されていない。」との特許庁からの拒絶理由通知を受けて追加加入されたものであるという前記経過からして明らかであつて、このような見解は、本件公報記載の図面第2図に下前の部位の横補強板を欠くものが示されていることによつても左右されないと考える。)。

しかるところ、イ号物件には右構成要件(ヘ)にいうところの横補強板は存在しない。

原告はイ号物件の板nが右構成要件にいう横補強板であるというが、それが山形部Aと同一の素材で作成されたものでこれと全く同一形状の斜状部aを有し、最下端部の山形部Aと下部横枠Eとの間にあつてその間隙をうめむしろ戸板Bの一部を構成していると認めうるものであることからすれば、板nは戸板Bを構成する山形部Aの一つの前方垂直部bを長大にしその水平部eを下部横枠Eとの接合に適合するように変形したものにすぎないと認めるのが相当である。

もし、これを横補強板であると解すると、イ号物件はこれを除いた戸板、縦枠、上下部横枠の基本部材から構成される鎧戸ということになり、下部横枠Eと最下段の山形部Aとの間に間隙を生じそれだけでは鎧戸として不完全なものとなり不自然である。

また、その点はしばらく措き、いま板nを原告が主張するように戸板Bと下部横枠Eを接合せしめるための横補強板であると解しても、イ号物件が本件考案の(ヘ)の構成要件を充足しているといいうるためには、戸板Bと上部横枠Dとの接合部にも両者を接合するための横補強板が前後に存在しなければならないところ(前記(2)の要件)、イ号物件にはかかる横補強板の存しないことは明らかである。

以上のようにみてくると、既にその余の構成部分の相違点や作用効果について検討するまでもなく、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属しないことは明らかである。

四 そうすると、被告らがイ号物件を業として製造販売することは何ら原告の本件実用新案権を侵害するものではない。

よつて、これを前提とする原告の本訴請求は全て失当であるから、これを棄却することとする。

〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

前下方に向け傾斜して形成した斜状部1の下端を垂直に垂下して前方に垂直部2を形成しかつその垂直部2の下端を後方に向け水平に折曲後退させると共に多数の通風孔6を穿設して水平部3を形成し、更にその先端を垂直に下方に向けて折曲げて後方の垂直部2´を形成してなる山形部4を数多く上下に連設してなる戸板7と、外側中央部に台形状の凹所11が又外表面両端に耳片が夫々縦長全長に亙つて形成された2個の縦枠8と、鴨居の溝内に嵌入し得る段部23を上端に有しかつ下端に端部曲折部21を有する掛止部18を両側下部に延長してなる中空状の上部横枠9と、下部凹所に戸車16を有しかつ上端に端部曲折部22を有する掛止部18を上方に突設してなる下部横枠10とを夫々組合せると共に、更に前記上下部横枠9、10の掛止部18に掛止めし得る横補強板17を戸板7の上下前後に取付けてなる鎧戸。

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